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引用元: 机の上に予言が書いてあった。


1: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 03:57:56.77 ID:7wm2QxL+0
初めに言っておきたい事がある。
これからする話の奇妙な現象は君には理解できないし、理解しようとして欲しくもない。
だって今の僕でも、あの時の事は何一つ分かっちゃいないんだ。

多分、神様の気まぐれなんだろうね。忙しい天国の久しぶりの長期休暇に浮き足立った何処かの神様が、パッと目に留まった僕に悪戯をした。
そして幸いにも、その神様は悪い神様じゃなかったんだ。

僕はそう考える事にした。いや、そうでも考えなきゃやってられなかったんだよ。
他に納得のいく説明が出来る? 普段使っている教室の机に落書きが書いてあって、その落書きが未来を予言している現象について。


2: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:01:10.31 ID:7wm2QxL+0
初めてその落書きに気づいたのは高校一年生の十月頃だったかな。
まだ残暑が続く中、唯一冷房が効いている図書室でいつものように本を読んでたんだ。

何を読んでいたんだっけな、昔から小さい文庫本が好きだったから、きっと文庫本。題名までは覚えていない。
帰宅部だった僕は放課後の有り余った時間を毎日図書室で水のように浪費した。

いつものように一九時頃まで本を読んで、そろそろ帰ろうと教室に置いてある鞄を取りに戻った。

3: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:03:27.55 ID:7wm2QxL+0
机の脇にぶら下がっている重いそれを持ち上げて、ふと机に目をやると僕は驚愕した。
机の上にでかでかと『めがねがわれる』と書いてあったのだ。

書いてあったと言っても鉛筆やボールペンで書かれたものではない。律儀にも消せないように彫刻刀のようなもので彫ってあった。
それを見た僕の頭にはイジメの三文字が浮かんだ。

しかしどんなに必死に考えても、僕をイジメるような人なんていないし、僕自身イジメられるような性格はしていないと思った。

どこかの誰かがひっそりと僕を恨んでいた可能性はある。そいつがこれをした、そう考える事もできたのだが、それを受け止めることはできなかった。

その日は逃げるように家に帰った。

4: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:07:54.93 ID:7wm2QxL+0
次の日の朝、念の為いつもより早起きして教室へ来てみると机の上の落書きは消えていた。
先生が気づいて机を変えてくれたのだろうか。そうだとすれば後できっと話を聞くために呼び出されるだろうな。

――そんな僕の考えは外れたようで、放課後になっても呼び出しをくらう事はなかった。
そうだとするなら、先生以外の誰かが机を変えてくれたのだろうか?よく分からなかったが、ありがたい事だった。
きっと机は変わっていなかったんだと思う。これも奇妙な話だ。

5: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:09:04.47 ID:7wm2QxL+0
その日も図書室を訪れた。
手軽に読める文庫本が僕のお気に入りで、ハードカバーを毛嫌いしていた僕だったが、数少ない友人の一人に勧められて、珍しく分厚い本を読んでいた。

普段は眼鏡をかけているのだが、本を読む時は目が疲れるので外している。
その時も図書室の長机の上に眼鏡を置いていた。

6: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:09:38.84 ID:7wm2QxL+0
ふとした拍子、机の真ん中に置いていたはずの眼鏡が机から落ちて、それを拾おうとした拍子に本が手から滑り落ち、物の見事にハードカバーを眼鏡に向けて落としてしまった。
加速度運動が働いているファーブル昆虫記程の大きさの本に下敷きにされた眼鏡はフレームだけを残しており、鏡と呼べる部分は見る影もなかった。

これが初めての予言体験だった。
その時の僕は偶然が重なった、面白いこともあるものだと思っただけだったが、その日も机の上の落書きを見つけてしまったんだ。

『きょうかしょをなくす』
もちろん、この予言も当たる事になる。

7: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:10:09.28 ID:7wm2QxL+0
それから毎日、放課後の僕の机の上には予言が書かれることになる。
予言に共通しているのは、全て僕に関する事だということだ。それもマイナスな事。

例えば最初の眼鏡のように、僕の物が壊れたり、無くなったり。予言が書かれた次の日にそれは起こる。
そして、全て予言通りになるというわけでもないらしい。

8: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:11:55.05 ID:7wm2QxL+0
僕の持っているお気に入りのボールペンがある。コンビニで買った八百円の三色ボールペンなのだが、これが壊れるという予言があった。
このペンは書き心地がすごく好みで、お気に入りだった。

アルバイトをしていない僕にとって八百円というのはなかなかに大きなもので、かといってボールペンに八百円を出してくれる親でもない。
そこで僕はそのボールペンを家に置いて学校へ行くことにした。予言を覆そうというのだ。

結論から言えば、成功である。

9: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:13:34.26 ID:7wm2QxL+0
僕は僕の手で未来を変えたのだ。とても小さな一歩だったが、どこかの神様に一泡吹かせてやったという晴れやかな気持ちで僕の心はいっぱいになった。
未来を変えられる事実を知ってから、僕にとっての予言の印象は、まだ若干の恐怖はあるものの、ある種の予報のようなものだった。

天気予報ほど曖昧な予測ではないが、物語の中に出てくる予知ほど正確でもない。書かれる予知は一文だけ、後はそれを僕が読解して、どう対策するかだ。
この時期の僕は輝いていたと思う。新しい玩具を買ってもらった子供みたいにはしゃいでいた筈だからね。

10: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:14:16.24 ID:7wm2QxL+0
何気ない日常の中で、何も役に立たない予言をただ僕一人だけが知っていて、そんなちょっとの非日常がとても楽しかったんだ。
しかし、ある日を境に事情が変わってくる。

11: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:15:31.80 ID:7wm2QxL+0
胸騒ぎがした。虫の知らせと言うのだろうか、僕はその日に何か起こることを予感していた。
昨日書いてあった予知は『けしごむをなくす』なんていう、いつもと同じ他愛もないものだった。その時使っていた消しゴムはボロボロで、買い置きが既に家に置いてあったから、無くなった所で問題はない。

授業の終了を知らせる鐘が鳴って、机の上に綺麗に並べておいた筆記具を筆箱に戻す時に、手がもたついて消しゴムを落としてしまった。小さく丸まったそれはでこぼこの空き地で蹴ったサッカーボールのようにイレギュラーに跳ねてどこかへ転がっていってしまった。予知通り。
無くなってしまった消しゴムを気にすることもなく、僕は次の授業の準備を始めた。

12: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:17:14.33 ID:7wm2QxL+0
その日の帰りは図書室に寄らずに帰ることにした。これといって用事があった訳ではない。しいていうなら気まぐれだ。
確かに僕は本が好きだが、だからと言って人生全てを本に捧げているわけでもないし、読んだ本の数が同級生の中で一番というわけでもないだろう、と思う。

とっとと家に帰ってゲームでもしようと考えていた時に、後ろから声をかけられた。
「ねぇ、君」
振り向いた先にいたのは、隣のクラスの女子だった。名前は相良咲さがらさき。長い髪は校則にしたがった黒色で、キリリとした目つきはクールさを感じさせた。どこかまだあどけなさを残した顔つきで、いかにも高校生という風貌だ。

13: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:19:02.00 ID:7wm2QxL+0
ほとんど話したことの無い相手だった。まして高校生だ。自分のクラスですら、中学時代に比べればその人数は圧倒的。その大規模な集団が幾つもあるのだ。
友達が多ければ隣のクラスや、隣のまた隣のクラスの人とも知り合い程度にはなれたのだろうが、僕はそういう種類の人間ではない。

話が逸れてしまった、そう、その相良さん。僕が女の子に話しかけられた事も驚くべき事なのだが、その子の左手にはもっと驚くべき事が秘められていた。

僕が失くした筈の消しゴムを握っていたのである。
「これ、君のでしょ? はい」

相良さんは笑顔でその小さな消しゴムを差し出してきた。

14: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:19:31.02 ID:7wm2QxL+0
忘れていた朝の胸騒ぎを思い出した。また胸の奥がざわざわと蠢いて、少しだけ目眩がした。
予知が告げる今日は、他人の鑑賞であっさりと変わってしまった。

問題はない筈だった。僕にとってマイナスな事ばかりのその予知が変わる事は、むしろ好都合である筈だった。しかし、僕の中には大きな穴ができたような気分になったのだ。
僕にしか知り得ないその予知に、僕だけの秘密にしてひっそりと楽しんでいたその予知に、殆ど面識のない他人によってあっけなく覆されてしまうその予知に、僕は大きく大きく失望してしまった。

15: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:23:03.39 ID:7wm2QxL+0
相良さんから消しゴムを受け取って、頭を下げてその場からそそくさと離れた。
部活動をしている生徒の大きな声と、相良さんの迷惑な優しさを背中に感じながら、僕は校舎から出た。
去り際に見た彼女の顔は、とても嬉しそうだった。

16: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:28:31.39 ID:7wm2QxL+0
次の日、退屈な授業。
教室の一番後ろ、窓際の席に座る僕は顎を手のひらの上にのせて肘を立て、窓の外を眺めていた。

昨日の事を思い出す。
とても簡単に変わってしまう予知、未来。

17: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:31:15.53 ID:7wm2QxL+0
毎日の楽しみであったその玩具は、相良さんの手によってあっけなく粉砕されてしまった。
考えてみれば当然の事だったのだ。未来を変えられるのは僕だけじゃない。未来を知っているからこそ、僕は僕自身の手で未来を変えているように感じていただけで、今も何処かで知らない誰かが、来るはずの未来を変えているのかもしれない。

こうも簡単に、至極柔軟に未来は変わるのだ。もしかすると僕が今右手を動かすだけで、未来が変わるのかもしれないな。変わる前の未来と変わった後の未来を知らない僕にそれを測る術など無いのだが。まさにシュレーディンガーの猫だ。
そういえば昨日は予言を見ていないな。今日はどんな事が起こる予定なのだろう。また何かを失ったり、壊したりするのだろう。

それから僕は、簡単に変わる未来予知に意味を見出せず、日課であった予言の確認をしなくなった。

18: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:31:38.04 ID:7wm2QxL+0
異変に気付く。
予言を初めて見た時から既に一ヶ月近くは経った。あの日から何かを失くしたり壊したりしなかった日はない。

19: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:33:29.72 ID:7wm2QxL+0
だが、あの相良さんに未来を変えられてから一週間、僕は何も失っていない。
何かを失いそうになったり、壊しそうになると決まって彼女が僕の前に現れるようになった。

もしかして、あの子は僕の予言を見ているのだろうか。
それを見て、僕を不憫に思って助けてくれているのだろうか。

その日僕は確信を得るために、一週間ぶりに予言を見ることにした。

20: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:34:44.03 ID:7wm2QxL+0
放課後、図書室に来た。
残暑と同時に冷房は消えて機械音はなく、聞こえてくる音は運動部の掛け声と吹奏楽の管楽器の音色だけ。

うるさすぎることもなく、静かすぎることもないその空間は、本を読むには絶好の場所だった。
元々僕は静かな場所が好きだった。静かな場所といっても閉店後の駅ビルだとか複合商業施設のような相対的に強化された静寂ではなく、こういった自然的な静かが好きなのだ。心が落ち着いて、少しばかりノスタルジックな気分になる。

この空間だけ、まるで時が止まっているようだった。
創設時から置かれているであろう古本の匂いが鼻を燻った。目に付いた本を棚から引き抜いて、顔に近づけて少しだけ匂いを嗅ぐ。人差し指で本の背を撫でて、がらがらの長机に座って本を開いた。

21: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:38:00.02 ID:7wm2QxL+0
半分ほど読み進めた頃、校内に下校時刻の放送が流れた。
すっかり本の中の世界に夢中になっていた僕は、意識を現実世界へと引き戻した。司書さんからメモ帳を一枚もらって、本に挟んで棚に戻す。

僕は早足で教室に向かった。
僕のクラスはBクラスだ。図書室がある西棟の二階の奥から二番目にある。

22: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:39:36.80 ID:7wm2QxL+0
慣れない早足に息を切らす間もないほどすぐに教室が見えてきた。
入り口前に人影がある。相良さんだ。

やはり僕の予言を見たのだろうか? 何やら嬉しそうな、恥ずかしそうな顔で下を向きながらこちらへ歩いてくる。
僕が近づくと、彼女は足を止め、顔をあげて僕の方を見た。

そのまま二秒間くらい見つめ合っていた。どちらから話しかけることもなく、ただ相良さんは困ったような照れたような、そんな顔をしていた。

先に口を開いたのは僕の方だった。

23: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:41:10.70 ID:7wm2QxL+0
「予知、見たの?」
至極単純な質問だった。ただ、力がこもってしまった。

目の前にいるこの子が、僕の楽しみを奪った本人だと思うと、腹が立ってしまったのだ。
こうなることは予想できていた。だから身構えていたつもりだった。彼女に会っても、怒らずにただ感謝しようと。

だけど、そうはいかなかった。

24: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:41:43.42 ID:7wm2QxL+0
もちろん本人は人助けのつもりだろう。助けられる人がいるなら助けたい、そんな人なのだろう。
僕だって逆の立場ならきっと同じ事をしたと思う。でもこの時の僕にはそんな冷静な頭はなかったんだ。

僕の玩具を、非日常を奪ったこいつがただただ憎いと思った。
子供だったんだな。フィクションやノンフィクションの物語をたくさん読んで肥えた頭は、現実に、非現実が起きて舞い上がってしまい、正常な判断がつかなかったんだ。


一度、僕の非日常を元の日常に変えた彼女を前にして喋り出してしまった僕は、止まらなかった。余計な事をした、とか、邪魔だ、とか。覚えていないだけで、もっと酷い事も言ったと思う。
沸騰しきった頭の血が冷めた頃には、目の前に泣いている彼女がいた。

嗚咽を漏らし、両の手の平で目元を擦りながら、彼女はただ「ごめんなさい」と一言口にして、その場を小走りで去っていった。

25: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:44:48.05 ID:7wm2QxL+0
怒りを吐き出して冷静さを取り戻した僕は、罪悪感に包まれた。今、君が想像しているような罪悪感よりもっと、何十倍も。親が病気になった後に反抗期の頃を思い出したような気分じゃないかな。
とにかく、謝りたかった。すぐにでも後を追って彼女の前で頭を地面につけて、誠意を見せたかった。

駆け出しそうになった足を既の所で止めた。今追って、謝ってどうなるというのだろう。
相良さんはまだ頭の整理ができていないはずだ。突然目の前に現れた僕に、助けていたはずの相手に言われもない暴言を吐かれたのだ。

26: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:45:15.02 ID:7wm2QxL+0
仮に謝ったとしても、何故暴言を吐かれたのか、何故謝られたのか、理解できるはずもない。
謝るなら明日、そう、明日にしよう。

そう自分に言い聞かせながら、目的である予言の書いてある机に向かって歩く。
誰もいない薄暗い教室の電気をつけて、ホワイトアウト現象に少し目を眩ませながら自分の机を見てみると、そこには『ともだちをなくす』と書いてあった。

外から部活動を終えた集団が帰宅する声が聞こえてくる。
いやにベタついた汗が頬を撫でた。

27: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:46:57.78 ID:7wm2QxL+0
足早に帰宅した僕は母に晩御飯はいらないとだけ伝えて、自室に籠もった。

大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。
今抱えている問題は二つ。

28: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:47:24.97 ID:7wm2QxL+0
一つ目は、相良さん。一方的に感情をぶつけてしまった事による罪悪感が大きい。肝心の聞きたい事も聞く事ができずに、ただ泣かせてしまった。まずはこちらを優先すべきだろう。

二つ目は、予言だ。今までの予言で一番タチが悪い。友達を失くすだって?ただでさえ二人程しか友達のいない僕が?

確かに最近僕は予言に夢中になって一人でいる時間が増えていたが、そんな事で友達をやめるほど脆い関係ではない。中学からの同級生なのだ。
受験の時は三人で同じ高校を選択し、三人で勉強をして、三人で合格したかけがえのない友達。失う訳にはいかない。

学校を休むのは得策ではないだろう。休んでいる間に二人が喧嘩をしてそのまま……という可能性も考えられる。
万が一学校で僕が何かをやらかしても、それを弁解するだけの頭は持っているし、ちょっとやそっとの事であいつらが縁を切るまで怒るとは思えない。

29: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:50:16.68 ID:7wm2QxL+0
とにかく、何かが起きてみないことには分からない。念には念を入れたいのが本音ではあるのだが。
ふと思い立った。相良さんだ。

今まで何度も僕の予言を覆してきたその人のことを思い出した。
何とか力を貸してもらえないだろうか。あんな事をしてしまった後に都合がいいと思われてしまいそうだが、何振りかまってもいられない。

もしかすると相良さんには、予言を覆す決定的な何かを持っているのかもしれない。
朝一番に学校へ行って相良さんを待とう。そしてすぐにでも謝って、相良さんの知っている事を聞いて、僕の知っている事も話す。そして協力してもらえるように頼もう。

一通り明日のスケジュールを決めた後、頭をフル回転させて疲れた僕の脳はすぐに睡眠を欲しがり、制服を脱いで寝間着に着替えてそのまま倒れるように眠った。

30: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:50:42.59 ID:7wm2QxL+0
次の日、相良さんは思ったよりも早く登校してきた。
いつもよりも一時間は早く教室にいた僕は、相良さんがくるまでの間ずっと本を読んでいた。

普段僕は物を借りるという事をしない。何かを借りるというのは、なんだか居心地が悪くて好きじゃなかった。しかしどうしようもなく暇だったので、仕方なく図書室から昨日の本を借りてきたのだ。
程なくして、廊下から足音が聞こえてきた。

相良さんの教室は僕の教室よりもう一つ奥にある。その教室に向かうには、僕の教室の前を通らないといけない具合だ。
教室のドアの小窓から姿を確認して足音の正体が相良さんだと分かると、僕はすぐに教室を出て声をかけた。

31: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:52:43.17 ID:7wm2QxL+0
「相良さん」と声をかけると、彼女はびっくりした顔でこちらを見た。この時間に人がいる事に純粋に驚いているのだろう。
「昨日はごめん」

謝罪の言葉はすぐにでた。周りに人目がなかった事もあるし、罪悪感から早く逃れたかったというのもある。
深々と下げた僕の姿にまた驚いたのか、相良さんは「え」と一言だけ声を漏らして、それからすぐに微笑んだ。

「気にしていないよ。私がお節介だったんだもの。あるよね、ありがた迷惑って」
彼女は口元に左手を寄せて、くすくすと笑った。

32: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:53:03.13 ID:7wm2QxL+0
その姿を見て、僕は一気に救われたような気分になった。それと同時に、昨日の自分を心から恥じた。
謝って許してもらえるだろうか、僕が言った酷い言葉の何倍も罵倒されるのじゃないか。そんな考えを持っていた事を恥じた。

この人はそんな人じゃない。ただ本当に、純粋無垢に、僕を救おうとしてくれていたのだ。
顔と胸が熱くなるのを感じた。

33: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:55:20.16 ID:7wm2QxL+0
安堵した所で、昨晩の予言を思い出す。そう、まだ問題は残っているのだ。
「どうしたの?」そんな僕の青い顔をみた彼女は、優しく問いかけてきた。

僕は知っている事の全てを話して、その後に相良さんの話も聞いた。

どうやら、相良さんは僕の思った通り、僕の予言を見ていたようだった。
ある日の放課後、僕のクラスメイトに用があったようで、僕の教室でその友達を待っていたらしい。その時にたまたま見つけたと。

34: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:55:40.06 ID:7wm2QxL+0
最初は僕がいじめにあっていると思った、と言っていた。そうだろうな、僕もそう思ったんだし。
相良さんはそれが予言であると気づくまでにそう時間はかからなかったようで、意地悪な神様に細やかな反抗をしようと企てた。僕の失う物を、失わないように努力したそうだ。

予言には法則性があるらしく、何かを失うのは四度ある休み時間か、放課後のどこからしい。僕は全く気がつかなかった。
その時間を少し注意して見張っていれば、予言を覆すのは容易い、と彼女は得意げに話していた。

しかし、僕が昨日の予言を伝えると、彼女の顔は一変して白くなった。元々とても白い顔ではあったが、もっと白く。その時僕は何か違和感を覚えた。
今までの予言は全て物に対してのものだった。だが今回は違う。人の心だ。机の下を転がったペンを拾って終わりではない。そう簡単にはいかないのだ。

35: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:56:23.11 ID:7wm2QxL+0
昨晩考えていた計画を相良さんに伝えると、少し難しい顔をして両の手を組み、考え事をし始めた。
僕の計画とは、なるべく友達二人と会話をするという単純なものだった。

相良さんの言う予言の法則を組み合わせて考えると、休み時間と放課後に不自然じゃない程度の会話をする。会話をすれば、雰囲気から怒っているかどうかが分かるはずだ。
会話の途中で空気が悪くなったら、すぐにでもその場を離れればいい。予言の効力は今日までなのだから、今日だけやり過ごせばいい。

僕も計画の細かい所まで考えていると、難しい顔をしていた相良さんが急に笑顔になり、また左手を口元に寄せてくすくすと笑い始めた。

36: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:59:21.50 ID:7wm2QxL+0
「どうしたの?」
不思議に思って声をかけると、微笑だった相良さんは大きな声で笑い始めた。あははは、と綺麗に笑う彼女を呆然と眺めていると、ようやく一息ついたようで、事のあらましを話してくれた。
「ふぅ……ごめんごめん。いやさ、簡単な事を思いついちゃったよ」

簡単な事……。なんだろう。必死に頭を動かしても、僕の頭には計画よりいい案が浮かばなかった。
「予言通りにしちゃおうよ」
まだ少し笑いの含む声で、彼女は言った。

37: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 04:59:50.92 ID:7wm2QxL+0
「友達を失えってこと?」
彼女としばらく話してみて、悪ふざけでそんな事を言う人じゃないというのは分かっていた。何か考えがあるのだろう。僕は彼女の言葉の続きを待った。

「私と君はもう友達だよね?」
唐突だった。友達という定義はよく分からないが、予言の事を話したのは彼女が初めてだし、僕を助けてくれていたのも彼女だし。

「もちろん、相良さんさえよければ」
うん、ならもう安心だ。といって彼女は僕の手を握った。

「付き合っちゃおう、私達」

38: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:02:49.37 ID:7wm2QxL+0
突然の事に困惑した。女の子の友達もろくに出来たことのない僕が、こんな突然に、それもこんなに可愛い子と……?
願ったり叶ったりだが、僕の頭には疑問が絶えなかった。

「待って。突然過ぎるし、しかもそれと予言、どう関係が……」
言いながらはっとした。そうか。

「気づいた? 予言を覆すのが難しいなら、予言通りにしちゃえばいいんだよ。友達を失って、彼女ができる」
一石二鳥じゃない? と彼女は微笑んだ。

39: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:03:19.07 ID:7wm2QxL+0
疑問が解消されたのと同時に、彼女の頭の回転の早さに感動した。
彼女が成績トップだった事を知るのは、もっと後になる。

僕はといえば、まだ色々とこんがらがっていて、脳の処理が追いついていなかった。
「それにね。私、前からずっと気になってたんだよ、君の事。そうじゃなきゃ、助けてあげようなんて思わないよ」

脳の処理よりも先に、幸福感が身を包んだ。
幸運というのはこういう事を言うのだろう。どん底に落ちた昨晩に比べ、その時の僕は天に昇るような気分だった。

40: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:05:51.90 ID:7wm2QxL+0
「ごめん……なんかまだよく分かってないんだけど……よろしくお願いします」
彼女は「なにそれ」といってまた笑い出した。

その姿につられて、僕も笑い出す。
顎が痛くなってきて、目に涙が溜まり始めた頃、僕らは手を繋いだ。

「なんか、よく分かんないけど」
右手で彼女の左手を握って、左手で頬をぽりぽりと掻く。

「神様も、お節介だね」
左手で僕の右手を握る彼女は、そういってまたくすくすと微笑んだ。

教室の予言の机に向かって歩く僕達の足音は、窓の外から聞こえてくる冬の音に重なった。

41: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:10:59.35 ID:7wm2QxL+0
どうだったかな? これが高校生の頃に僕に起きた神様の気まぐれだよ。
ロマンチックな話だと思っただろう? 僕もそう思う。

ちなみに、あの後に予言は起きなくなったよ。縁結びの神様だったんだろうね。

42: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:11:17.95 ID:7wm2QxL+0
あれから僕と彼女はずっと一緒にいる。あの時から五年経った今でも、ずっとね。
高校卒業してすぐに僕は地元の企業に就職して、アパートの一室を借りて彼女と同棲してる。

彼女はというと大学に通ってるよ。今は二回生だね。

……と、所で僕がこの話を思い出したのは、ある出来事がきっかけなんだ。
簡単に言うとね、予言はまた起きたんだ。

43: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:13:24.99 ID:7wm2QxL+0
一ヶ月前、僕のアパートにあるデスクの上に落書きがあった。
その日は日曜日で、休日最後の日を満喫しようと椅子に座って気がついた。

それはシャープペンで書かれたような文字で、そこには『炬燵こたつを買う』と書いてあった。
突然に舞い降りたその非日常への入り口は、僕に寒気を感じさせた。

昔と違って、今は非日常に憧れる事はなくなった。むしろ日常が恋しかった。

44: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:13:57.88 ID:7wm2QxL+0
仕事へ行って、帰ってくると家には彼女、相良咲が居て、二人でご飯を作って。そんな日常が幸せだった。
そんな中に現れた非日常。迷惑な事この上ない。

それに今は二人で同居している。どちらを対象とした予言かも分からない。
とりあえず僕はその予言を消しゴムで消して、この話を咲にするべきかどうかを考えた。

ちょうど咲は外出中で、考える時間は沢山あった。せっかくの休日をこんな風に過ごさなきゃいけない事に憤りを感じつつも、頭を冷やしてゆっくりと考える事にした。

45: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:16:52.75 ID:7wm2QxL+0
夜になって、咲が帰ってきた。十八歳になってすぐに普通車免許を取得した彼女は、バイト代を必死に貯めて中古の軽自動車を買った。昨今には珍しい、ミニディスクが挿入できるカーオーディオが付いたムーブ。
その車の独特なエンジン音で、いつも帰ってきたのが部屋の中からでも分かる。

玄関の鍵が開いて、扉が開いたが中々咲は中に入ってこなかった。大きな段ボールが玄関につっかえて中に入れないようだ。
「おかえり。これは?」
重い荷物を部屋に運ぶのを手伝って、一息つく。

46: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:17:26.73 ID:7wm2QxL+0
「ただいま。もうすぐ冬だからね。炬燵、買ってきたよ」
そう、炬燵だった。予言通り。

「そうか。とりあえず押入れに入れておく?」
予言通りになったことに疑問も持たず、普段通りに接する。

昼間のうちに考えて、予言の主が誰だかあらかた検討がついていた。
とりあえずは様子を見るとしよう。

「せっかくだし出そうよ。別に電源つけなくてもテーブルとして使えるんだし」
それもそうか。元々使っていた小さなテーブルを片付けて押入れにしまい、炬燵の入った大きなダンボールを解体して、それを部屋の中央へ設置した。

暖かい冬になりそうだ。

47: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:22:11.29 ID:7wm2QxL+0
それから毎日予言は起きた。何かを壊す、何かを食べる、何かを買う、種類は様々だった。
この時点で昔の予言と違う事が分かるだろう。あの時にあった予言はいつも何かを失うというものだった。そして、この偽予言は書かれたその日に起こる。

それに本当の予言なら、きっと擦ったら消えるようなもので書かれたりしないはずだ。偽予言は文字が少し擦れて滲んでいた。
全て含めて考えてみると、この予言を書いているのは、咲しかいなかった。

何が目的なのかは分からない。今はとりあえず予言に気づいてはいるが、咲が書いたとは気づいてないふりをしておこう。

そのうちにきっと思惑が見えてくるはずだ。
変わった甘え方なのかもしれない。

48: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:22:43.46 ID:7wm2QxL+0
最初の偽予言からちょうど一ヶ月経った日、デスクを見てみるとその日も予言は書いてあった。
『恋人を失う』

僕はクスリと笑って、その予言を消しゴムで消した。
念の為、今日は咲と一緒にいよう。万が一、という事もあるし。

49: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:24:46.55 ID:7wm2QxL+0
「買い物、行ってくるねー」
ささっとだけ化粧を済ませた彼女が玄関へ向かうのを引き止めた。

「僕も今日は休みだし、久しぶりにデートに行こう」
そういうと咲は満面の笑顔になって着替え始めた。

デートの為に買った服でもあるのだろう。最近少し寂しい思いをさせていたかな。

「三十分待って!」
彼女は洗面所に走っていった。

51: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:33:49.38 ID:7wm2QxL+0
外出して帰ってくるまで、結局何も起こらなかった。

喧嘩する事もなく、映画館やアウトレットを周ると間に事故が起きる様子もなかった。
咲の様子もおかしい所はなかったし、むしろいつもより上機嫌だった。

以上を踏まえて、僕は確信が持つ。さぁ、そろそろ聞き出そうか。

52: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:34:29.98 ID:7wm2QxL+0
お風呂に入り終わって眠そうにしている咲の隣に腰掛けて、話しかける。

「なぁ、どうしてこんな事したんだ?」
さっきまでドラマのエンディングを流していたテレビはニュースに変わり、重苦しい話をしている。
咲は半分寝ているんじゃないかと思うほど、うつらうつらとしていた。

「何がー?」
寝ぼけ声で返事をする彼女は、もう目を閉じていた。

53: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:35:44.58 ID:7wm2QxL+0
「ここで寝るなよ、風邪引くから。予言の事だよ」
予言の話をすると、咲は目を見開いた。

「あちゃー、バレてたの?」

彼女はとぼける事もなく、あっさりと認めた。

「そりゃバレてるよ。あの時の予言はいつもひらがなだったし、消せないように彫られてたし、いつも何かを失うようなマイナスな予言しか書かれてなかったんだ。何より、文字の左側が黒ずんでた。左利きの咲が書いたんだってすぐ分かったよ」
彼女は「細かい所まで覚えてるねー」と言ってバツが悪そうな顔をした。

54: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:36:12.00 ID:7wm2QxL+0
「それで、どうしてこんな事したんだ?」
確信に迫る。一番に聞きたいのはそこだった。いや、予想はついている。だがはっきりと咲の口から聞きたかった。

「気づいてないの? 鈍いなぁー」

予想通り、だな。

55: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:37:02.36 ID:7wm2QxL+0
「気づいてるよ。でも昔の咲なら直接伝えたろう? あの時みたいに」
あ、とだけ言って咲は黙り込んで、難しい顔をして、左手をこめかみに当てた。

「んとね、あの時言ってなかったんだけどさ」

実は私も予言、書かれてたんだよね。

56: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:38:29.64 ID:7wm2QxL+0
最初は悪戯だと思った。けど、それが予言だと気づくのは簡単だった。同じ事を経験してる人が近くにいたからね。
私はずっと貴方を見てた。だから予言の事も知ってた。貴方がいなかったら多分イジメだと思ってたよ。あの頃の私は自慢じゃないけど勉強が出来て、色んな人から妬まれてたから。

友達も殆どいなくて、勉強しかする事がなくてね。皮肉なもんだよ。
いつも放課後、図書室で勉強してた。私が貴方の事を見てたの、気づかなかったでしょ?いつも本に夢中になってたもんね。

ずっと話しかけたいなって思ってたんだけど、勇気が出なくて。
そんな時に予言が現れたの。しかも都合よく貴方に関係する事だった。

57: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:39:59.07 ID:7wm2QxL+0
貴方が消しゴムを失くして落ち込むとか、ペンを失くして落ち込むとか、そういうの。
だから貴方を助けて、仲良くなろうと思ったの。でも結果は失敗、余計な事をするなって怒られちゃった。

ショックでさ。すぐにトイレに駆け込んだよ。泣き顔も見られたくなかったし、何より貴方に酷い言葉をかけてしまいそうで。そんなの絶対嫌だった。
少し経って落ち着いて、私の予言を見に戻ったら、私と付き合って喜ぶって書いてあるんだもん。

すぐに元気になったよ。我ながら単純だけど、ね。

だから、自信満々で付き合おうって言えたの。卑怯でしょ?
だから今回も卑怯な事をした。
本当は私、臆病で、卑怯なの。

58: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:40:34.26 ID:7wm2QxL+0
きっと咲は自分の中にある勇気を全部使って、この話をしてくれたんだと思う。

話の途中途中、鼻をすする音が聞こえて、肩は震えていて、顔はずっと下を向いていた。

自分の性格を偽って、僕と付き合ったんだ。それが嘘だとバレたら、嫌われると思ったに違いない。
実際、僕が付き合った理由はそこが大きい。

勇気があって、明るくて、つられて笑っちゃいそうなほど屈託無く笑う彼女に惹かれた。
でも、今は違う。

59: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:42:45.98 ID:7wm2QxL+0
「そうだったんだ。なんか話が合わないと思ってたんだ。僕の予言を見ていたはずなら、友達を失うっていう予言も見ていたはずだもんね」

あの時の咲は友達を失うという僕の予言を聞いて顔を白くさせていた。
知っていたなら、こんな反応はしないだろう。

「そうだよ、ごめんね。騙してた」
「うん、すっかり騙されてた」
それから彼女はずっと下を向いたまま、黙り続けていた。

60: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:43:16.31 ID:7wm2QxL+0
「それじゃ、恋人はやめよう」
僕が言うと、彼女はまた震えだした。

「私の書いた予言……その通りになったね」
少しだけ嗚咽を漏らしながら、両の手の平で目を擦りながら彼女は言う。

「ごめんね、ごめん」

61: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:46:05.94 ID:7wm2QxL+0
僕はあの時の彼女みたいに、初めはくすくすと、それから大きな声で笑い始めた。
状況が飲み込めていない彼女は目を見開いてこっちを見ていた。キョトンとしている。

「ふぅ……ごめんごめん、意地悪した」
え? と声を漏らす彼女の手をとって、僕は言った。

62: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:48:07.59 ID:7wm2QxL+0
「結婚しよう。これで君は恋人から、婚約者だ」
まだ理解できていない彼女は、呆気にとられたように、少しだけ涙を流しながら。

「ごめん……まだよく分かってないんだけど……よろしくお願いします」
僕はまた笑う。

「なにそれ」
彼女も笑う。

二人で大きな声で笑って、顎が痛くなって、目に涙が溜まり始めた頃、僕らは手を繋いだ。
デスクには、『こいびとをなくす』と書いてあった。

63: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:48:23.15 ID:7wm2QxL+0
おわり。

64: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 05:51:46.54 ID:Ud3ROXJ10
なるほど…いちおつ!!!
オチは読めたけど!!
ものすごいほっこりした!!!

66: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 08:17:41.89 ID:Vo7ruIY+O
爽やか!!
面白かった

67: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 08:46:31.59 ID:i166un/v0
良かった。

71: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 16:46:12.98 ID:fB798xzB0
久しぶりに面白かったよ

70: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/07/16(木) 14:19:15.03 ID:wWsdM8iA0
げんふうけいの人か

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