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引用元: 幼馴染「卒業させてあげよっか」 男「」


1: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 09:50:28.895 ID:if40sTly0
今日は夏にしては珍しく半袖だと少々肌寒い。
そういえばニュースでも長袖があればいいかもと言っていた。

夏休みに入って十日ほどが過ぎた。
まだ昼前だが、ここ数日が部活漬けだったせいか、偶の休みに何をしていいのか分からなくなっていた。

「少しは勉強でもしたら」

そんな様子を気にとめたのか、キッチンで家事をしていた母親が話しかけてくる。このまま何もせず家でダラダラしていれば同じことを言われ続けるかもしれない。

2: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 09:51:17.458 ID:BN3XeAkOd
人生卒業か

4: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 09:56:16.522 ID:if40sTly0
「図書館いってくる」

もちろん図書館に行く気なんて更々ないのだが、その発言に満足したのか、母親は鼻唄をうたって何も言わなくなった。

携帯と財布だけ持って家を出ると、やはり上着を着てくればよかったと後悔した。

近くのコンビニに入ると、効きすぎた冷房が身に染みる。
温かい缶コーヒーを買ってから外に出る。
手の中の温もりとコンビニとの温度差のおかげか、外気の冷たさは先ほどより幾分マシに感じた。

そのまま当てもなく近所をウロウロしていると、気付けば昔通っていた小学校の前にいた。

5: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 09:56:22.459 ID:uDEPfV8J0
こーの支配からの 卒業

7: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:01:35.474 ID:if40sTly0
校庭ではサッカークラブの子供たちがボールを蹴り回しながら、楽しそうな声をあげていた。

元々運動神経なんて無いようなもんだし、サッカーしたいとは少しも思わないのだが、何故だか少し羨ましく思った。

「何してるの」

突然、背後から声をかけられた。
びっくりしながら振り返ると、犬を連れた幼馴染が立っていた。

「……久しぶり」

幼馴染とは言っても学校が同じだったのは中学までで、高校からは別々になった。

8: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:05:55.396 ID:if40sTly0
中学までは今ほど疎遠ではなかったし、むしろとても仲が良かったと思う。
家がすぐ近所だったこともあって、よく一緒に登校していたし、起こしに来たのだって一度や二度の話じゃない。

学校では夫婦だなんだのと囃し立てられ、正直お互い満更でもなかったように思う。

けれど中学を卒業して別々の高校に通うようになってしばらくすると、俺たちは自然と話す回数が減った。

そして高校にも慣れた去年の秋頃、幼馴染は彼氏を作った。

9: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:07:24.062 ID:8l1J5GrA0
おわた

11: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:11:31.340 ID:if40sTly0
「君には一番に報告しようと思って」

そんなメールが届いたのは、部活を終えて疲れ切った状態の時だった。
ただでさえその日はミスが多く、顧問や先輩にしこたま怒られて気分が落ち込んでいたのだ。
まるで底なし沼にはまったかのように俺の気分はズブズブと沈み、暗澹とした気分のまましばらく過ごした。

それでも時間の力というのは偉大なもので、半年も経つ頃にはどうでもよくなっていた。

今年の六月には部活の先輩に告白されて付き合い始めたし、幼馴染とも連絡をとらなくなっていた。

12: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:16:58.023 ID:if40sTly0
久しぶりに会った幼馴染の姿は、中学の頃の面影は残っていたものの、まるで別人と言えるくらいに見違えていた。
肩まで伸ばした髪やうっすらと化粧した顔。服装も、中学時代は動きやすいジーパンやシャツなどが多かったのに、今はふんわりとした可愛くて女らしい格好。

少し見惚れる。

「それで、何してるの」

直接会うのは高1の夏以来だから、ちょうと一年ぶりくらいだろうか。
それなのに彼女の言葉からは、以前と変わらぬ親しみが感じられた。

13: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:22:51.768 ID:if40sTly0
「別に何も。お前はどうしたの」

「チョビの散歩」

そういえば高校に入って犬を飼い始めたと言っていた。
実際に見るのはこれが初めてだし、チョビという名前も今知った。

もう俺の知ってる幼馴染とは違うなと改めて感じた。

世間話を少ししたあと、一緒に歩かないかと誘われた。
特に断る理由もなかったので、犬を先頭に二人で歩き出した。

少し散歩が賑やかになったななどと考えていると、先週彼氏と別れたことを伝えられた。

14: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:29:34.324 ID:if40sTly0
「価値観がね、合わなかったの」

理由と尋ねると、そんな答えが返ってきた。

価値観が合うとか合わないとか、まだ高校生である俺には難しい話のように思えた。
けれど幼馴染だって同じ高校生なわけで、この一年で彼女に何があったのかが気になった。

それから俺たちはお互いのことを話し合った。
学校で出来た新しい友達のこと、社会科のテストで解答欄がズレて赤点だったこと、部活の後輩が実は同じ中学だったこと、等々。

俺に年上の彼女が出来たことも話した。
部活の先輩で、向こうから告白されたと。
その時の幼馴染の顔は、僅かに暗い表情のようにも見えた。
だから少しだけ、期待してしまったのかもしれない。

16: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:36:24.039 ID:if40sTly0
気づけば幼馴染の家の前にいた。

久々に見る彼女の家は、昔こそ自分の家のように勝手が分かっていたが、今は外見すら全く見知らぬ家に思えた。

「せっかくだし上がっていきなよ」

彼女がいると言っても未だに俺は童貞で、先ほどから少しばかり期待していたこともあってか、俺はそのままお邪魔することにした。

久々に入る幼馴染の部屋は、中学の頃とほとんど変わらぬ様子で、俺はそれに若干安堵した。

再開してから今に至るまで、俺の知っていた頃の幼馴染の影は殆どなく、この部屋だけが俺の中で幼馴染を幼馴染として認められる唯一の部分だった。

17: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:41:48.164 ID:if40sTly0
「お茶持ってくるね」

何度となく訪れたはずの部屋でカチカチに緊張している俺を尻目に、彼女は立ち上がって部屋を出て行く。

一人になった俺には、少しだけ考える時間が出来た。

彼氏と別れた幼馴染、それをわざわざ伝えてから男を部屋にあげるなんて、それはもうフラグとしか思えない。

けれど俺の知る彼女はそんなことをするような人ではなかったはず。
そう考えると下腹部に集まりつつあった血流は一気に衰え、幼馴染に一体何があったのだろうという疑問の方が脳内を占めた。

19: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:48:59.553 ID:if40sTly0
「お待たせ」

お茶を机の上に置き、再び彼女と談笑する。
何故だか先ほどよりもずっと話しやすく思えた。

頃合いを見計らって、幼馴染に尋ねる。

「……何かあったのか」

幼馴染は口をつぐみ、ゆっくりと窓の外に視線を向けた。
空はすっかり茜色に染まり、カラスの鳴き声が良く聞こえた。

「晩御飯、一緒に食べよ」

俺は微笑みながらいう彼女のお願いを断れなかった。

20: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 10:56:53.957 ID:if40sTly0
母親に晩御飯はいらない旨をメールすると、すぐに返事がきた。

「図書館じゃなかったの」

忘れていた。
そういえば図書館に行くと言って家を出たのだった。

友達に会った事にしてなんとか誤魔化すと、「早めに帰ってきなさい」という文章の最後に怒りマークがついた返事だった。
なんとか許されたということだろう。

「おばさん、何だって?」

食卓に皿を並べる幼馴染は、黒猫が描かれたエプロンを付けていた。
犬ではないのか。

22: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 11:04:33.459 ID:if40sTly0
幼馴染の家は両親共働きだったので、よく家に呼んで一緒に食事を摂っていた。

けれど中学に上がった頃から、ウチの母親によく家事を教わるようになり、二年になる頃には幼馴染が料理をすることが多くなっていた。

だからキッチンで料理をしている幼馴染の背中は、何だかとても懐かしく感じた。

「温かいうちに食べようか」

二人で対面に座り、一緒に食事する。
ウチでは隣り合わせだったからか、食事中の彼女の顔をみるのはとても新鮮だった。

24: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 11:15:04.601 ID:if40sTly0
食事を終えて話し込んでいると、時計の短針は7と8の間を指していた。

「俺、そろそろ帰るわ」

席を立ちながらそう言うと、幼馴染が座る椅子がガタリと音を立てて倒れた。

「……待って」

その声は激しく震えていた。
驚いて彼女の顔を見ると、目尻には僅かに水の粒が光っていた。

「行かないで」

そう言いながら俺の服の裾を掴む。
よく見ると、震えていたのは声だけではなかった。

彼女をこのまま一人には出来ないと思った。
振り返って幼馴染の肩を掴むと、少しだけ怯えたような表情を見せた後、ゆっくりと瞼を閉じた。

そのまま口を近づけようとした時、俺の携帯が鳴った。

27: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 11:22:16.159 ID:if40sTly0
液晶を見ると、その電話は彼女からだった。

悪いと幼馴染に声をかけ、通話ボタンを押す。

「もしもし」

『もしもし、今何してた?』

「……特に何も。どうしたの?」

言いながら幼馴染を見ると、小声で「お風呂準備してくるね」と言い、リビングから出て行く。

『ううん、ちょっと声が聞きたくなっただけ』

それから一言二言会話すると、彼女は満足したようだった。

『じゃあまた部活でね』

通話を終えると同時に幼馴染が戻ってくる。

28: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 11:29:12.436 ID:fFb6i0oKd
なるほど

29: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 11:34:31.871 ID:if40sTly0
「お風呂が沸いたら入っていきなよ」

幼馴染は赤く腫れた目を擦りながら話す。
一人に出来ないと思ったが、彼女との電話で俺の中には罪悪感が溢れかえっていた。

「……お願い」

俺は何も言えなかったが、やはりどうしてもこのまま放っておくことだけは出来ないと思った。
罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、長年の付き合いがあった幼馴染のためだと無理やり納得することにした。

視線を逸らしながらも頷くと、彼女は嬉しそうに微笑み、気のせいかと思うほど小さな声でありがとうと囁いた。

30: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 11:45:21.017 ID:if40sTly0
お風呂が沸くまで彼女の話を聞いた。

彼氏は手をあげることが多かったこと。
それでもどうしても好きでいてしまうこと。
そして、その人の子供を孕んだこと。

「当然堕ろしたんだけどね、正直、少しだけ産みたかったんだ」

寂しそうな表情で話す彼女の言葉には、嘘が混じっているようには感じられなかった。

俺は彼女の話から耳を逸らすことができなかった。

32: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 11:52:25.576 ID:if40sTly0
その後の幼馴染の話をまとめると、こうだ。

妊娠が発覚した直後、幼馴染とその彼氏は退学になった。
彼氏側は堕ろすための費用を幼馴染に渡すと、そのまま一家でどこかへ引っ越したらしい。つまり逃げたのだ。

「価値観が合わなかったなんて嘘。本当は捨てられたの」

そういうと幼馴染はコップに口をつける。
お茶を一口飲むと、ふぅと息を吐いた。
それと同時にお人形の夢と目覚めのワンフレーズがリビングに響き、お風呂が沸いたことを伝える。
静まり返ったリビングには、その音がよく響いた。

33: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 11:54:57.224 ID:p+AhfXhod
こわい

35: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 12:02:58.524 ID:if40sTly0
「……入ってきていいよ」

一つ頷いて、風呂場に向かう。

洗面所で服を脱いでいると、鏡に写る裸の自分と目があった。

「……寝取られたってことだろうか」

ふと口から漏れた言葉。
まあ幼馴染と付き合っていたわけではないし、そもそも俺にだって彼女がいるのだから、その言葉は相応しいとは言えないだろう。

けれど幼馴染が妊娠したという話はとても生々しく、俺の心に深く突き刺さって消えない傷跡を刻み込んだ。

36: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 12:10:15.658 ID:if40sTly0
湯船に浸かりながら考えた。
どうすれば幼馴染を救えるだろうか。

救う、なんてのは傲慢かもしれない。
けれど居場所を無くして、この広い家に独りで取り残された幼馴染には、手を差し延べるべきだと思った。

中学を卒業してからロクに話してこなかった。
俺はきっと怖かったんだ。
俺から離れていく幼馴染が。誰かのものになってしまった幼馴染が。

俺は幼馴染のことが好きだったんだ。

37: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 12:23:55.636 ID:if40sTly0
ガタリと洗面所から音がする。

曇りガラス越しに人影が見えた。

「お、おい!」

叫ぶと同時にドアが開く。
一糸まとわぬ姿で現れた幼馴染に、俺の体は正直に反応した。

「何やってんだお前!」

幼馴染に背を向ける。
まるで体中の全ての血液が下腹部に集中するかのように、俺の体は熱く滾っていた。

それを抑えこまんと必死になるも、背後に感じる気配が許してはくれなかった。

38: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 12:26:53.975 ID:cH9M3yTzd
屋上には行かないのか

39: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 12:36:05.242 ID:if40sTly0
「……私、嬉しかったの。久しぶりに君と話せて」

背後から聞こえる声。
先ほどまでリビングで話していた時とは比較にならないほど淫靡に感じられた。

「……君はまだ童貞?」

図星を突かれ、僅かに自分の肩が跳ねたのが分かった。

逃げなきゃという気持ちと共に、逃げられないという事実を認める自分もいた。

「卒業させてあげよっか」

俺はその場から動けなかった。

40: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 12:37:37.651 ID:n8GXBXLuK
幼は退学食らったってコトは今のトコロ無職でいいの?
胸糞とは違った意味で、どっちも幸せになりそうも無いなぁ。

41: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 12:45:15.674 ID:XXD4GAc3H
いいねvipにしては珍しい

42: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 12:48:06.038 ID:if40sTly0
「ダメだって、こんなの……。彼女だっているし」

そう言いながらも、俺は幼馴染にされるがままになっていた。

自らの意思の弱さを痛感した。

顔を近づける幼馴染を拒否することが出来ず、そのまま口が触れ合う。
彼女の舌が口の中に入ってくるのは少し快感を感じたが、それがより一層自己嫌悪に繋がった。

もうどうすることも出来ないのだと悟った。

諦めてからは時間が早く感じた。

彼女はよがるのを、俺はただただ眺めていた。

43: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 13:00:28.505 ID:if40sTly0
風呂場で無様に腰を振りながら、俺は六月の出来事を思い出していた。

その日は部活動を終えた後、一人で顧問に注意された点を見直していた。

最終下校時刻をまわったあたりで、見回りにきた教師に促されて後片付けを始める。
すると何処にいたのか先輩が現れて、それを手伝ってくれた。

「すいません、手伝わせてしまって」

謝ると、先輩は優しく笑いながら気にしないでと言ってくれた。

44: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 13:10:50.933 ID:if40sTly0
一通り片付け終えて用具室の鍵を閉めると、先輩に呼び止められた。

「……家まで送ってくれない」

見れば、先輩の顔は暮れる夕日と同じくらいに真っ赤に染まり、拳を強く強く握りしめていた。

学校を出る頃にはこの夕日も沈みきり、辺りは真っ暗になるだろう。
それに何より、幼馴染の件で傷ついていた俺とって、先輩と仲良くすることは幼馴染を忘れることにつながるだろうという卑怯な考えもあった。

「構いませんよ」

そう言うと先輩の表情は一気に明るくなり、荷物持って校門で待ってると言い残して消えてしまった。

45: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 13:18:37.405 ID:if40sTly0
帰り道、俺たちはどちらからという訳でもなく、いつの間にか手を繋いでいた。

触れた彼女の手は少し熱くて、少し湿っぽかった。
……それはきっと俺もだろうけど。

家の前に着く頃には、自然と手を離していた。

「それじゃ……」

そう言ってドアを開いて家の中へと消えようとする彼女の肩を掴み、引き留める。

「……」

けれどうまく言葉に出来なくて、時間だけが流れていく。

そのまま五分近く経過したところで、彼女の方から声を発される。

「……明日も送ってくれますか」

46: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 13:25:30.653 ID:if40sTly0
俺が無言で頷くのを確認すると、彼女は何も言わずに家の中へと消えていった。
その後、どうやって家に帰ったかは覚えてなかった。

次の日から俺たちは毎日のように一緒に帰った。

先輩を家まで送り届けることが習慣になりつつあった六月最後の日。
俺は先輩に告白され、付き合うことになった。

48: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 13:40:18.092 ID:if40sTly0
「何を考えてるの」

声をかけられ、意識が現実に引き戻される。

目の前にいるのは先輩ではなく、裸の幼馴染だった。

あの後、俺たちは風呂場を出て幼馴染の部屋に移動した。
そのまま行為を続け、気がつけばカーテンの隙間からは陽の光が漏れ入っていた。

携帯を見ると、先輩からメールが届いていた。

『さっきは急に電話してごめんね。早く部活で君と会いたいな』

突如、俺の中に後悔の念が沸々と湧き上がってくるのを感じた。
自分がしたことの卑劣さに胸がはち切れそうになるほど息が乱れた。

服を着て部屋を出ると、幼馴染も追いかけてきた。

「行かないでッ!」

悲痛に叫ぶその声は、急ぐ俺の足を硬直させた。
息が詰まり、冷や汗が噴き出た。

49: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 13:48:05.635 ID:if40sTly0
「俺、行かなくちゃ……」

何も出来ずに立ち尽くす俺がやっとのことでしぼり出した台詞。
それは情けないほど力の抜けた声だった。

「そっか……」

そう言うと幼馴染は何故だかすぐに引き下がった。
俺はそれに少しホッとし、すぐにそんな自分を嫌悪した。

幼馴染は諦めたようにため息を吐く。

「慰めてくれてありがとう」

50: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 13:56:16.324 ID:if40sTly0
その言葉で俺は理解した。

幼馴染にとって今の俺はただの慰み者でしかないのだと。
幼馴染が求めていたのはきっと俺じゃない。彼女のことを慰めてくれる、彼氏ではない誰かなのだ。
彼氏の裏切りに対する、単なる自暴自棄ような行動かもしれない。

要するに俺は便利な彼氏の代わりとして幼馴染に使われたのだ。

「ごめんね」

幼馴染のその言葉で、俺の心は虚しさと惨めさに飲み込まれた。

51: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 14:01:34.753 ID:KM45V0n+0
誰も幸せになれなさそう

52: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 14:09:59.450 ID:if40sTly0
あの後。

俺は先輩と別れた。
彼女と付き合い続けることは、俺にはどうしても出来なかった。
先輩の顔を見る度に幼馴染との事が思い出され、うまく話せなくなった。

別れ話を切り出す時も、言葉は途切れ途切れになった。
結局は携帯のメモに「別れてください」と書いて、それを見せた。
泣いて縋る先輩の姿を見て、俺は自分への憤りで狂いそうになった。
自傷行為を繰り返すようになり、人と話すこともほとんど無くなった。

部活には夏休み中に退部届を出した。
今辞めるのは勿体無いという顧問の言葉が、とても嘘臭く聞こえた。

55: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 14:22:39.802 ID:if40sTly0
幼馴染は一人暮らしを始めた。
アルバイトをして、家賃を自分で負担することが条件らしい。

「どうせ学校には行ってないし」

そう言って日中はほとんどアルバイトに費やしていた。
彼女の表情は俺とは対照的に、日に日に明るくなっていくように思えた。

幼馴染との関係はずるずると続いていた。
幼馴染が放った「ごめんね」という言葉は俺から行動する気力を根こそぎ奪った。
空っぽになった俺は何もかもがどうでもよくなり、再び幼馴染を抱いた。
先輩のことを忘れようと何度も何度も腰を動かした。
その度に頭の中は先輩のことで埋め尽くされた。

56: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 14:35:07.950 ID:if40sTly0
先輩は卒業と同時に大学へと進んだ。
この街からは飛行機でも使わないと会いに行けないほど遠い場所。
もう二度と先輩に会えないと思うと、苦しさもあったがそれ以上に安堵を覚えた。

こんなことを考える自分が、俺はどうしようもなく怖かった。

幼馴染との関係が増えるにつれ、どんどんと自分が壊れていくように感じた。

俺は自分が自分でいられる内に何とかしなければと思った。

57: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 14:50:17.415 ID:if40sTly0
6月30日。
先輩に告白されて一年が過ぎた。
俺はもうほとんど自分を見失っていた。

湯船には溢れんばかりのお湯を張った。
先ほどまでの苦しみが嘘のように、不思議と気分は落ち着いていた。

カッターを持つ左手に力をこめ、右手首を深く抉る。
そのまま湯船に沈めると、噴き出る血液が美しく広がっていくのが見える。

遠のく意識の中で、俺はただ先輩の顔を思い浮かべていた。

58: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 14:51:58.649 ID:if40sTly0
おしまい
童貞の方が幸せっていうお話です(大嘘)
こんな話にするつもりはなかったので、書き溜めって大事だなと思いました
拙い文章ながらも頑張ったつもりです
見てくれてありがとうございました

59: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 14:54:42.140 ID:PTPM2oPdr
乙さん

62: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 15:01:33.199 ID:+Ftm2XLrd
よかったわ


63: 以下、Zチャンネル@VIPがお送りします 2015/11/25(水) 15:13:40.346 ID:n8GXBXLuK
乙。
幼視点からのストーリーも読んでみたくなった。

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